趙之謙は清時代に逆入平出の技法で、碑学派最後の人間として北魏書という表現分野を切り開いた。
隷書、楷書、行書の作品は、型へ落ち込みそうになりながらも、際どく踏みとどまり、特に渇筆の楷書五言聯では鬱屈した気が噴出している。



篆刻の方が日本に強い影響を与えたというが、篆刻については全く不明なので、猫に小判なのが残念だった。
2Fでは、「中国書画精華」。
国宝が目白押しだったが、趙孟ふの蘭亭序十三跋が一際眼を引いた。
日本の焼経は見ているが、定武本蘭亭序を臨書して火に遭ったものが丁重に装丁されており、蘭亭序に対する中国の計り知れない偏愛振りが溢れ出る。

黄庭堅の王史二氏墓誌銘稿巻も、夥しい加筆訂正が面白い。

書以外にも、こんなものがこんな所にと眼福横溢。
遮光器土偶は亀ヶ岡のものが有名だが、秋田の恵比須田のものも中々だ。逆に亀ヶ岡の遮光器土偶でないものもユーモラス。
火焔土器も陳列中。
438年作の江田船山古墳出土の銀象嵌銘大刀は、日本人による現存最古の漢字が描かれている。
稲荷山古墳出土のものと同じ雄略天皇に比定される大王の名前が書かれていて、大和政権の勢力範囲を知る上でも有名だ。
ここでお目にかかれるとは思わなかったが、勿論国宝。


さりげなく珠玉の青磁「銘馬蝗絆」が置かれている。

小品だが、酒井抱一の「武蔵野図扇面」は扇一つで秋の気配を漂わす。

法隆寺宝物館の「摩耶夫人及び天人像」
摩耶夫人が無憂樹の花枝をた折ろうとするや、釈迦が腋下から誕生した伝説の造形だが、闇の中ではまるで流麗に舞い踊っているかのようだ。

竜首水瓶の、蓋の龍の抉り取るような造形は緑色ガラス製の竜眼を一際引き立たせ、竜は眠る事無く時空を睥睨し続ける。

美術の秋の少し手前、見れども見えずの幣を少し解きほぐした平常展散歩だった。