美称のようにも思える、甘楽という曰くありげな名前の出自も、半島からの渡来人のカラ(韓=加羅)の由来とする説もあり歴史を感じさせる。
上信電鉄の上州福島駅から、道を辿る途中に鎌倉街道の標識があって気に掛かるが、調べても未だに不明のまま。

日本名水百選の雄川堰沿いは桜並木となっており、春は所々に残る白壁の旧家の佇まいに花が映える様が目に浮かぶ。
大手門跡を横に、レンガ造の大正時代の養蚕倉庫を改築した歴史民俗資料館があり、世界遺産登録を目指している「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つとなっている。


藩主が通った中小路は14mもある闊達な道で、石組みが美しく残り、昔の勘定奉行高橋家の白壁の家が景観を引き締める。
入口には、笑門のお札を貼った注連飾り。
防衛上とも下級武士が上級武士に出会うのを避ける為とも言われる、喰い違い郭も珍しい。



群馬で唯一残存している大名庭園という楽山園は「知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ」と言う論語の一節から名付けられた。
桂離宮を模したとも言われており、借景の山を戴いた回遊式の林泉は、辿る道筋に従い次々に視線と景観が変化して飽きる事がない。
今は三月末までの修復復元工事が進んでおり、工事完了後はより一層人々の誇りの場所になる事だろう。



町を歩くと、小中学校の生徒が一人残らず挨拶をしてくれる。
このような町は少なくないが、聞くと学校でそのように指導を受けているとの事。
特に旅行者に対してでなく、町で会う人に全て挨拶を交わす。
住んでいる土地に対する親しみと、地域の繋がりや誇りはこのような日常の些細な事から受け継がれる。
日本を歩くと疲弊した地方も多いが、この町は伝統と経済が程よく整合し、何より暮らしている人々の町に対する矜持と自信が問わず語りに窺える。
小さな城下町小幡は、歩いていても空気がキリリと引き締まって感じられた事だった。